蛸壺屋「松陰神社」(前半) 「みんながあんまり誉めたりするから、私自分が優秀な人間だって勘違いしちゃったじゃない!!」の元ネタ

エロ同人

長くネットをやっている人であればアイキャッチの画像は見たことがあるのではないかと思います。

「みんながあんまり誉めたりするから、私自分が優秀な人間だって勘違いしちゃったじゃない!!」の元ネタで検索した人はたぶん少なくないと思います。

この元ネタとなる作品は「松陰神社」と言って蛸壺屋が2000年から2003年にかけて発行したオリジナル創作の同人作品です。

 

皆さんは上のコマだけ読んで、どういう文脈の1シーンだと思いますか?

他の蛸壺屋作品、特に「蛸壺屋のけいおん三部作」などを読んだ人は、秋山澪のように「勘違いして思いあがっていた女が現実を知って打ちのめされる」程度のシーンだと思うかもしれません。「学校の勉強できた人間が社会に出て失敗した」みたいな話だと思うかもしれません。

もちろん、それで一部はあってるんですが蛸壺屋作品はそんなに甘くない。このコマの女性(雪絵)が上のシーンに到達するまでの過程は読者がこのシーンだけ見て想像するよりずっとえげつないです。

 

「松陰神社」の作中で伊藤雪絵がたどった人生

伊藤雪絵はもともとは裕福な家庭に育ち、同年代の子供の中ではとても優秀だった。無理をせずとも他の人よりもたくさんのことができたので、学校では自然とリーダー的な役割を担うことになる。特別扱いされることを当然と思う代わりに、その分責任感が強い人間に育っていた。

雪絵は幼すぎて、リーダーシップの取り方を間違えた

幼いころに優秀すぎるというのも弊害があるようで、雪絵は周りの人も自分と同じことができて当然と思い、それができないと苛立ったり見下したりしてしまうところがあった。周りの人間を信じることができず、重要なことはなんでも自分でやろうとし、他人に頼ったり任せるということができなかった

彼女にとって周りの人間は「やる気がないならそれ相応の仕事をさせればいい」存在でしかなかった。彼女なりに良かれと思って雑用などを頼むのだが周りの人間にもプライドがある。ほとんどの人間は彼女に協力などせずむしろ彼女を傲慢だと批判した

fateについて質問です。セイバーは何故「人の気持ちが分からない」と批判されたのでしょうかそして何故反乱を起こされたのでしょうか?
fateについて質問です。セイバーは何故「人の気持ちが分からない」と批判されたのでしょうかそして何故反乱を起こされたのでしょうか?

こうやってクラスでも孤立することが多くなった。それでも中学までは他人を頼らなくても自分が頑張りさえすればよいと意地を張っていた。(他人に厳しい代わりに自分にも厳しかったから、少ないながらも彼女を支持し、助ける生徒もいた)

次第にリーダーの地位からも脱落して、学校に居場所がなくなっていった

しかし、彼女は早熟だっただけで天才だったわけではない。
高校になるとすでに成績もトップではなかったし、小学校や中学の時のように、自分だけが頑張ればなんとかなるようなことはなくなっていた。次第とリーダーのポジションを任されなくなっていた。

彼女は、今まで小学校・中学校とリーダー的な立場でしか人と接したことがなく、リーダーでなくなってもやはり同級生と対等に接するということができなかった。誰かに頼ったり心を開くことができず、友達と呼べる存在がいない状態でクラスの中で孤立していた

とはいっても、彼女自身別にそれで困らなかったし彼女なりにぼっちの高校生活を楽しんでいた。(はがないの「夜空」みたいなキャラだと思えばよい)。何事もなければそれなりの人生は送れていたかもしれない。

両親が死んでから状況が一変する

両親はビジネスで失敗して破産、娘である雪絵を置いて自殺する

この後雪絵は叔父の家に引き取られるが、不幸なことにこの叔父はプライドの高い雪絵にとっていろんな面で軽蔑に値する人間だった。(教養がなく、ご飯の食べ方が汚く、そして姪の下着をあさるような人間

このコマも有名ですよね。

叔父は雪絵にとっては下劣な人間だったかもしれないが、今までは悪事を働いたりすることもなく善良に過ごしてきた。両親が死んで立場の弱い彼女が折れて従順にふるまっていたらたぶんそこまでひどいことにはしなかったと思う。

だが、誇り高く育ち、自殺した両親すら許すことができなかった雪絵が、この叔父に媚びることなどできるはずがなかった。彼女は常に凛としてふるまい、叔父に対しては容赦なく軽蔑の視線を向けた。そんな彼女の視線に対して最初は卑屈にふるまっていた叔父だったが、しまいには逆上して彼女に暴行を振るうようになる。もともと兄である雪絵の父親に見下されて強い劣等感を抱いていたこともあり、そのうっぷんをここぞとばかりに立場の弱い姪にぶつける。

卑屈な人は、身近に凛としたふるまいをする人間がいると劣等感を刺激されて嫉妬したり嫌悪を抱く。そしてその人間を引きずり落そうとする。「ミスミソウ」という作品において、いびつながらも均衡を保っていた田舎の学級が、東京から来た美少女・野崎春花という異物が紛れ込んだとたんに崩壊してしまったのと同様に、叔父も雪絵の存在によって自制心を保てなくなってしまったのかもしれない。

 

一度タガが外れてしまった叔父の暴行はどんどんエスカレートしていった。

感情を殺すんだ……。私の感情はこんなくだらないことには使わない。私は今までなんでも他人よりうまくこなしてきた。きっと、感情だってうまく殺せるはず。私なら、私なら……

 

でも、彼女は特別強い人間だったわけではない。いままでずっと強くなければならないと思い込んで意地を張ってきただけだ。正しくあり続ければ報われると信じようとしていただけで、理不尽な暴力に対しては無力な、むしろ弱い人間だった。

でも、ルールを無視したやり方からは。開き直った恥知らずからは。軽蔑するしか身を守るすべを知らない弱い娘だ

友もなく、学校での居場所もなく、家庭では暴行や性的虐待を受け続ける雪絵にはどこにも逃げ場がなかった

強いストレスにさらされ続けた彼女は解離症を発症し、ついには別人格を生み出すに至る。

そうして生み出された人格は、もはや叔父に逆らう気力もなくなすがままになぶられるだけの雪絵に代わって、叔父を殺害することを決意する。

もう、終わりにしよう。あなたも、私も、この世にいない方がいいよ。私たち醜すぎるよ

雪絵は叔父だけでなく、叔父に汚されて抵抗できなかった自分のことも許せなかった。目の前の障害に対して、最悪の手段を使わざるを得なかった自分を負けと認めてしまった。負けてしまった自分はもう生きている価値がなかった

このあとすみやかに自分も自殺することを決意して家を出る。

有名な「私、自分が優秀な人間だって勘違いしちゃったじゃない」のシーンは雪絵が自殺する前に、誰も聞いてくれる相手がいない孤独な状態で世界に向けて呪詛を放つシーン

どうしてこんなことになったんだろう。
私は成功者になりたかった。成功して、その姿をお父さんとお母さんに見せつけたかった。何がいけなかったんだろう。私はいつだって優秀だったはずだ。周りだってみんなそう言ってた。なのに、最初の障害すら乗り越えられなかった。お父さんたちと何も変わらない。一回目でもう最後の引き金を引いてしまった。
私は今、人生の負け組。犯罪者だ…「普通」にすらなれなかったなんて……普通って難しいね……

ねえみんな。なんで私をそんなに褒めてくれたの!?私のどこがそんなに優れてて、いっぱい賞状やトロフィーをくれたの!?みんながあんまり誉めたりするから、私、自分が優秀な人間だって勘違いしちゃったじゃない!

それでこのザマよ!私なんて、ほんとはダメダメだったんだ。勝手にAなんてつけないでよ!何の保証にもならない数字で勘違いさせないでよ!!

彼女の最大の不幸は、最後まで誰にも弱音がはけず、誰にも助けを求められなかったこと。本当は彼女のことを尊敬したり、彼女と仲良くなりたい人もいたのに、そのすべてを拒否してしまった。

雪絵は結局一人で限界まで耐えて、一人で行動して、一人で自分を処罰した。彼女の人生はずっと孤独であった。

 

死ぬときも、誰にも見つからぬように一人で首をつって死のうとしたが……

ここからがさらにエグイ。

せめて一度で死ねれば何も考える暇がなくて救いがあったかもしれない。でも、ここでも不幸なことに彼女は何度も失敗する。死ぬことすらうまくできなかったのだ。

ただでさえ自殺するのは勇気がいる行為だ。しかも雪絵は思考能力がしっかりあった。自分の意志で死ななければいけないと決めていたから、何度も失敗して、その都度もう一度勇気を振り絞って首を吊りなおさなければいけなかった

その都度彼女の中では、つらさや寂しさが渦巻いたことだろう。誰か止めてくれるなら止めてほしかったし、せめて死ぬ前に自分の話を誰かに聞いてもらいたかった。しかし彼女には何一つ救いは訪れなかった。結局彼女は自分の望みが何であったのかさえ知らずに死んだ

 

雪絵は死後「悪霊」としてよみがえる。彼女が本当に望んでいたことは何だったのか……。

 

松陰神社という作品のあらすじについて

「松陰神社」という作品は、ざっくりいうとこの雪絵が「幸」という霊の声を聴くことができる巫女と関わっていく物語である。

とはいえ、一方的に幸が雪絵を救って終わりというような単純な話ではない。

終盤には救う側と救われる側の立場が何度も入れ替わり、意外なところで伏線が回収されるストーリーは普通に漫画としてとても良く出来ており、今読んでもとても面白い。

この記事で紹介した内容は「松陰神社」という作品のだいたい3分の1くらいです。これだけでも十分面白いと思いますが、この漫画にはまだまだ奥があります。ぜひ読んでみてほしいいのだけれどさすがに古すぎる作品なので、「後半」としてシナリオのまとめをやる予定です。

 

後編:こちらは全編のストーリーまとめです。

蛸壺屋「松陰神社」(後半)  日向幸、家永郁美、伊藤雪絵の3人が織りなす魂の救済のストーリー
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過去に書いた蛸壺屋の同人作品紹介

【蛸壺屋】「ゆきゆきて戦車道」感想  ガールズ・アンド・パンツァー同人のやべーやつ
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他にも古い奴から最新作の「テートクの決断」までいろいろと紹介していきたいと思います。

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