
の続き。今回は雪絵だけでなく「松陰神社」全体のストーリーのあらすじを追いかけていきます。
(分量が多いのであえて文字だけにしましたが、画像あった方が良いでしょうか?画像もある程度あった方が良いという人はコメント欄に一言いただけるとありがたいです)
物語の舞台となるのは自殺の名所と呼ばれた松陰神社。
この物語の主人公は日向幸という。松陰神社で巫女のアルバイトをしている高校生2年生の女の子。幼いころから霊感が強く、幼馴染の娘が死ぬ直前に夢枕に立ったこともある。彼女はずっとそういう霊の姿なき声に耳を傾けるという形で人知らず迷った成仏させていた。
そんなある日、神社に「家永郁美」と「伊藤雪絵」の二人が訪れる
家永郁美は元子役アイドルで、2年前に事故で死亡していたはずなのだが、幸だけでなく霊感のない他の巫女アルバイトにも姿が見えて人と同じようにふるまう。
これはどういうことだろう?
実は郁美は神社から少し離れた街中で事故にあって死亡した後、未練により事故現場に地縛霊として縛り付けられていた。それを霊能力のある伊藤雪絵が引きはがし、神社まで連れてきたのだ。雪絵は郁美の「家族にもう一度会いたい」という気持ちをかなえるために連れ出したのだがその思いはかなええられず、郁美は一度悪霊となりかける。
幸はそんな郁美をグーパンチで殴り飛ばして目を覚まさせた後、自宅家に引き取って甘えさせる。愛情に飢えていた郁美は幸を慕い、幸も郁美のことを憎からず思う。しかし郁美はあくまで雪絵によって一時的に実体化させてもらっているだけの霊である。残された時間はそれほどなかった。
郁美ちゃんには十分に時間をあげたわ。でも現実は希望通りじゃなかった。これ以上何をやることがあるの?このまま記憶と一緒に消える方がいいわ。それとも、つらい記憶を忘れるのも邪魔するつもり?あなたが今まで霊たちとどうかかわってきたかは知らないけれど、何もかもうまくいくなんてありえないことくらいわかってるでしょう?
もう記憶も少しずつ失われていき、足も満足に動かなかくなった郁美を見て雪絵はもうどうしようもないからあきらめろと諭すが幸はあきらめない。郁美を事故現場に連れて行き、あの日越えられなかった交差点を渡り切るように郁美に促す。郁美は最後の力を振り絞って渡り切って成仏する。
「郁美ちゃんのことは驚いちゃった。あんなことできるんだね」
「私は何もしていない。郁美が希望を捨てなかっただけ……」
「あ……幸……それは私も……?」
ここまでが2巻。2巻までは普通の優しい除霊物語くらいの話なのだが3巻からは大きく話が動く。
郁美が成仏したのちも、雪絵は続けて松陰神社を訪れ続ける
3巻は冒頭で、雪絵が叔父を殺そうとするが勇気が出ないでくじけるシーンが描かれる。
2巻までは郁美に陰のように付き添っているだけの存在だったが、実際はどす黒い過去を抱えていることがわかる。また、雪絵は幸について、幸自身が気づいてない何かを知っているようだ。
「強がっても幸ってば泣き虫さんなんだからね。泣き虫さんのさびしがりやさんなんだ。」
「幸、あなたなら、私をわかってくれるかしら?」
雪絵は幸とすこしずつ距離を詰めていき、ある時、自分の過去の思い出話を語る。それによると、雪絵は幼い時から優等生であったが、親が死んだあと叔父のもとに引き取られ、新しい家では叔父たちと反りが合わずに苦労続きだった。それでもめげずにバイトを頑張りながら受験勉強に成功し、奨学金とアルバイトをしながらひとり暮らしをすることでやっと自由になれた、という内容だった。
雪絵の正体は……
そうやって和やかに過ごしていた二人だったが、ある日雪絵が幸と別れて一人でいるところに、松陰神社の神主の妻が話しかけてくる。この人物も霊感が強いらしい。
実は、郁美だけでなく雪絵も2年前に死んでおり、雪絵はかつかつてないほどの力を持つ悪霊となっており、その力によって郁美など他の霊の情念を解放していたことがこの神主の妻から明かされる。
本性を明らかにした雪絵の圧倒的な力の前に神主の妻は敗れ去るが、神社に戻った後で幸に郁美は悪霊だから気をつけろと告げるも、幸はすでに雪絵に取りつかれていた。
雪絵は幸の内面に入り込み、幸の過去を覗き見る
神主の妻から見たら完全に幸は取りつかれていたのだが、実は幸は雪絵に取りつかれつつも自我を保っていた。
雪絵は強引に幸の内面に入り込み、幸の過去を覗き見る。幸は幼いころ、特に幼馴染の女の子が死んでからは霊が見えるようになり、そのことを周りに告げても誰にも理解されず、不気味がられていた。幸もまた、雪絵と同じような孤独を抱えていたのだ。
そのことを知った雪絵は幸に強いシンパシーを抱き、人間と霊の間で「真の友情」を結ぼうとよびかける。
私はどこまでもあなたの味方よ。決してあなたを裏切らないしあなたを疑わないわ。私もあなたみたいな人を待っていたの。私とあなたなら、本当の友情を築けるかもしれない。そう思うの
しかし、幸は雪絵が思っている以上に霊の心を深く読み取ることができた。幸は先ほど雪絵がした思い出話に嘘が混じっていたことを感じ取り「なぜ私にうそをついたのか」と指摘する。
雪絵は躊躇したが、幸には嘘が通じないし、逆に幸ならすべてわかってくれると信じて本当のことを話す。
先ほど雪絵が思い出話で語った雪絵の過去は偽物だった。本物の雪絵は苦難と戦って自由を勝ち取ることができなかったのだ。叔父に自由にもてあそばれ、その果てに叔父を殺害したのちに自殺した。そういう弱い人間が伊藤雪絵の真実の姿だったのだ。
雪絵はこの告白をしたとき震えていたが、幸はまっすぐにそれを受け止め、そして受け入れる。
雪絵。私でも、刺すよ。
雪絵でさえ耐えられなかったのなら、私でも刺すよ
雪絵は、生きていた時、ここまで自分が受け入れられたことはなかった。そして、幸が本音からこう言ってくれているのが分かった。自分の罪を受け止め、そして受け入れてくれる存在を前に、一度は素直に恨みを晴らして成仏しようとする……
……のだが、ここで先ほどの「神主の妻」が側にいることに気づいてしまう。
幸とは全然関係がなかったのだが、雪絵は幸がこの人物に依頼されて自分を除霊しようとしたと勘違いし、裏切られた気持ちになる。そして悪霊の力を解放して幸の身体を完全に乗っ取り、幸を崖から落として殺すことで幸と一緒になる、という道を選ぼうとする。
雪絵は土壇場で裏切られることの怖さから幸を信じ切ることができなかったのだ。
雪絵……こんなんじゃ、こんなんじゃ友達になれないよ……
絶体絶命の瞬間に「なぜか」成仏したはずの郁美が登場して助けてくれる
身体の自由が利かなくなって、あと一歩で崖から落ちるというところで幸を救ったのは、成仏したはずの郁美だった。
結局止まり切れずに崖から落下する幸だが、この時も郁美がクッションとなって助けてくれる。
見た目は間違いなく郁美なのだが、何か様子がおかしい。そもそも郁美は成仏したはずだ。
一体、この郁美は何なのだろう?
不思議に思いつつもとりあえず落下した崖を登りなおしていく幸だが、この途中で雪絵の残留思念が流れ込んでくる。雪絵は叔父を殺害した後自殺するのだが、その際に自殺するためにこの崖を下っていく道を通っていたのだ。
幸は雪絵が自殺するまでに何を思ってどういう行動をとったのかを一つ一つ確認していくのだった。
もしもし中島君?久しぶりー。伊藤ですー。
うん、いやちょっとどうしてるのかなーって。卒業式以来だよね。
元気そうで、あはは。
あの…2年の時の文化祭、ありがとうね。うれしかったよ。
え?あ、いやちゃんとお礼言ってなかったし。
ん?ううん。別にどうもしないよ。ただ、ありがとうって言っておきたかったの。
幸は崖を登りなおして再度雪絵と対峙する
雪絵のこれ以上の暴走を止めようとする幸だが、雪絵はそれを拒否する
救われないですって?だから何?
そんな、ドラマじゃあるまいし。誰だって幸せになれるはずないじゃない。
虐げられてそのまま死んだ人たちには、ハッピーエンドなんて永遠に来ないのよ。幸のやり方(郁美の時にやったように夢を見せて成仏させる)はわかったわ。
でも、私ならあんな絵空事でごまかされるのはまっぴらよ。
自分の失敗を…不幸を認めて苦しみ続けることになろうともね。
だって、そういう人生を送ってしまったんだからしょうがないじゃない!
雪絵は強力な力を持つ悪霊なので、力勝負では幸が勝てる見込みはない。先ほどは幸との友情を信じて身をゆだねてくれそうになっていたが、今度はそうはいかなかった。
力の差の前に幸はねじ伏せられ、今度こそ雪絵に殺されそうになる。
しかし、殺そうとして幸に触れた雪絵は、幸の本当の姿を知ることになる。
幸の本当の姿とは
雪絵が触れた幸の魂は子供の姿だった。
幸は霊を自分の中に取り込んで、それを再び呼び出すことができる力を持っていた。幸はずっと、霊の話を聞き、受け入れ(取りつかせ)続けてきたのだった。
つまり、先ほど登場した「郁美」の正体は、実は幸が自分で生み出した霊なのである。
特に、幸は一番最初に幼馴染のみゆきちゃんが死んだとき、彼女に取りつかれ、その時の約束を守ってずっと幼いままの魂で居続け、どんな魂もすべて受け入れることを続けていたのだ。
幸の魂に触れた雪絵は、今度こそ本当に幸のことを信じることができた
雪絵は先ほど、幸が自分を成仏させようとしていたと思って恨んだ。
しかし、子供の姿をした幸の魂に触れて、幸が純粋な気持ちで自分を受け入れようとしていてくれたことを今度こそ信じることができた。
また、自分が幸に群がる他の霊と同様に、無力で子供である幸にすがって食い物にしようとしていたことを自覚する。
これは子供である自分をもてあそぼうとした叔父とやってることが同じであり、死んだとはいえ誇り高い彼女の精神が許せることではなかった。雪絵は、自らの意志で恨みすらねじ伏せ、消え去ろうと決意する。
私ももう、こんなことやめなくちゃね。
さよなら、幸。私のために泣いてくれてうれしかった。
ここまででも十分面白いけれど、ここで終わったらすごく面白いけれど面白いだけであまり印象に残らなかったと思う。やはり、ここから先の展開が本作を名作たらしめる要素だと私は思います。
幸に救われた雪絵が、幸を救う
まだ自分が叔父を刺し殺したトラウマがぬぐえないながらも悪霊としてふるまうことをやめようと決めた雪絵。
ただ、このまま終わりにはしない。
「悔しいよね、幸だけがつらい目にあい続けるのは」
「そうやって、いつまでも自分だけ不幸をしょいこむつもり?」
「人のことはどうでもいいわ。幸、あなたのことを聞いているのよ」
「もう幸にとりつくのはやめなさい。私たちと一緒に逝くのよ。〇〇〇」
残された力を使って幸に取りついたものをすべて連れて去っていく。目覚めたときには、幸の魂を子供の姿に縛り付け、常にまとわりついていた霊たちはいなくなっていた。
今度は雪絵に救われた幸が、雪絵を救う
これでめでたしめでたし……でも良いのだけれど話はまだ終わらない。
雪絵は幸を救い、幸のもとを去って行ったように見えたが、雪絵は救われて成仏したわけではなかった。雪絵の魂はまだこの世にとどまり続けていたのだ。
そもそもなぜ雪絵がこれほどまでに強い悪霊になったかというと、「誰からも死体を発見されず、死んだことさえ確定しない状態」であったためだ。そのせいで永遠に死の直前のシーンをやり直すという地獄を味わうことになってしまっていた。この苦しみや切なさが彼女を悪霊にしていた。
この地獄のような繰り返しのシーンは、菅野ひろゆきの不朽の名作「DESIRE」を思い出す。
この悠久の螺旋から助け出してくれるのは、誰?
雪絵が本当に望んでいたこと
雪絵は、ただ誰かに自分という人間がいたことを見つけてもらいたかった。そして、死ななくても良いと言ってほしかった。自分では自分が死ぬことを止められなかったから、せめて死んだ後に誰かにその死を悼んでほしかった。ただ自分がどれほど寂しかったかを誰かにわかってほしかった。
結局その思いは果たされることがなかった。
それでも、雪絵はもう悪霊となって誰かに迷惑をかけようとすることをやめる。それどころか、幸にその存在を気づかれることなくずっと苦しみ続けようと覚悟していた。
でも、私はもうここから動かない。
私が苦しいと言ったら、また悲しませることになるから…幸を
それでも幸は、雪絵の思いをたどって、雪絵が命を絶った場所に行きつき、そして彼女の死体を見つける。そして、今度こそ心を開いた雪絵の話を聞く。
「ねえ幸。私は本当は嫌な人間だったのかな…だから報いを受けたんだよね」
「ううん。違うよ。雪絵はいい人であろうと頑張ったし、現にいい人だよ。」
「いいひとかぁ…そうだといいなぁ……でも、幸がそう言ってくれるなら、やっと死んだことを後悔できそうだよ」
「ねえ幸。うん。私がここでやってたことも良くないことかな。」
「雪絵は、相手のためにと思ってやったんだよね。きっと悪いことじゃないよ。」
「…幸の膝、あったかいね。ここ、ずっと冷たかったから」
「ねえ幸。少し眠くなってきちゃった。もう少しだけこうしていてくれる?」
「うん。いいよ」
そして最後は郁美と同じように彼女を優しい夢の中に導き成仏させる。
遺体もきちんと弔い、ついに雪絵は何度も死に続けるという地獄から解放される。
こうして幸が郁美を救い、郁美が幸を救い、幸が雪絵を救い、雪絵が幸を救い、そして最後に幸が雪絵を救うという形で螺旋のように救うものと救われるものが入れ替わり、すべての物語が終了する。
エピローグ
郁美も雪絵も去って幸は一人になる。
もう幸は以前のように霊の声が聞こえるということはなくなっていた。
今までは無口で誰とも打ち解けない雰囲気だった幸は少し明るくなり、
アルバイトをしながら雪絵がよく口ずさんでいた歌を口ずさむのだった。
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