先週、こんな記事を書きました。

こちらの記事が、僕の知らないところで拡散されていたようです。
ありがとうございます。もう少し突っ込んで書いてみますので、はじめましての方も、前述の記事を読んでくださった方もお付き合いください
「突っ込んだことを書こう」
そのきっかけは、DLチャンネルの公式キャラクター「アテナちゃん」でした。
良く調べてあるけど、先生このほかに
「広告出稿された作品」という観点を入れるともっと的確になると思います
(あんまりこういうこと言っていい立場かわからんけど)FANZAとDLsiteでエロ同人の売れ行きを検証した(累積CGランキング編) https://t.co/GkcUfDLbq0
— アテナちゃん@DLチャンネル公式 (@DL_channel) August 31, 2020
アテナちゃん…いや、アテナ先生からの宿題。
またとない機会ということでチャレンジしたのだが…この話はかなり奥が深かったです。
「広告出稿された作品」から見えるDLsite/FANZAの戦略
まずは、アテナちゃんの宿題を正面からこなしていきましょう。
…というわけで、両社の広告を見てみましょう。
売れる売れない問わず、質がいいDLsiteの広告達
アテナちゃんは優秀な先生ですから、宿題を投げっぱなしにしません。
ぼくみたいな生徒が問題を自分で解けるように、ヒントをすでに投稿してありました。

これは、DLsiteが広告を出している同人作品の一覧です。
見る人が見れば、
「売れ筋だけじゃなくて、隠れた良作も抑えてきているな!」
「18禁だけでなく、全年齢向けもあるぞ!」
「マンガやCGだけじゃなくて、同人音声・ゲームの広告も出してるぞ!」
と、多彩なラインナップに驚くのです。
とはいえ、やはりメインは大手サークルの作品。
累積ランキングに掲載されていて、なおかつ広告映えする大手サークルの作品。
その中でも一番成功してるのは(肌感覚的には)これだと思います。
同人作品を隅々まで読んでいるDLsiteだからできる最高のチョイス。
・ひぐま屋自体が同人作品の大手だから知名度もバッチリ
・万人ウケする作品で、性癖や気分を選ばずいつでも読める作品
・単純な画力、質感、男女ともに楽しめる作品で広告に釣られて買っても損がない作品
と、文句のつけようがない広告がこれなんです。
もちろん、ぼくもレビュー済です。
良いものはいい!そりゃ語りますよ!!

広告とは本来「売れてるいいものをもっと知ってもらいたい」から打つものなので、当然の判断と言えるでしょう。
この作品、販売数は広告を打つ作品の中では売れてない方なのですが…すごく良いんです!!
一人の女の子が、セックスをきっかけに自信をつけて顔つきも言葉も行動も変わっていく姿に…自分の実体験や、女の子に翻弄されるふしだらな関係を思い起こす要素があって、すごく感情を揺さぶられる作品なんです!!
…もちろん、レビュー済です。
変貌する女の子の姿が「セックスが自信や勇気を与えてるように見えた」ことから、ぼくは【射精管理は教育です!】という気持ち悪い迷言とともに紹介しました。

DLsite側からすると、未知数の試みかもしれません。
しかし、より良い作品が広告で成功する事例になってくれたら…隠れた名作たちも広告になっていく流れが生まれるかもしれないので期待しています。
広告だけじゃない!アテナちゃんの同人作品の知識は、マジモンのガチオタ!!
ツウ好みな同人作品を広告に選ぶDLsiteだが…DLチャンネルのアテナちゃんまで来ると、ツウ好みを通り越して
「なんでそこまで知ってるんだよ!」
「もはや【企業アカウントが同人作品宣伝してる】んじゃなくて、【ガチオタが企業アカウントをジャックしてる】状態じゃないか!!」
という領域にまでたどり着くほどです。
そもそも、DLチャンネルとはなにかというと…簡単に言うと「公式が用意した二次元向けのコミュニティサイト」です。

詳しいことは公式CMを、見て!死ぬほど笑えるからwww
そんな、コミュニティサイトを公式からPRしているのが、「アテナちゃん」です。
ほぼ毎日、おすすめのまとめを見つけては、一言コメント付きで紹介してくれるので、新作情報やマニアックな作品情報を追いかけたい人にはうってつけです。
「販売数が伸びてない掘り出し物」でもきちっと拾ってくるすげぇアカウントなんです。
自分が書いたもので2つ例を出します。
この作品は激ヤバだったね……想像の100倍ハードだたーよ
メスガキ作品の新解釈「ドM教師と鬼ロリ」が壮絶!! – DLチャンネル みんなで作る二次元情報サイト! https://t.co/9z3MIJlV52 #DLチャンネル
— アテナちゃん@DLチャンネル公式 (@DL_channel) August 28, 2020
この作品、メチャクチャ革新的で、斬新な作品なんだけど…あまりにも斬新すぎるんです…。
だから、紹介した時に「読んだことある口ぶり」で、ピックアップしてもらえるとは思わなかったです。
エロマンガ好きな人でもきっと読んだことない唯一無二の作品なんですけどね…販売数は控えめ。
そして、もう1つが「アテナちゃんが拾ってくれた作品の中で最もニッチな」作品。
おばショタ、ショタにトラウマを与えたいタイプのみなさんにはこちらは必読ではないでしょうか…?
もはやアート!?ニワトリ仙人先生の「暴虐の女神」が狂ってる!! – DLチャンネル みんなで作る二次元情報サイト! https://t.co/IkQDJ7b1XY #DLチャンネル
— アテナちゃん@DLチャンネル公式 (@DL_channel) July 29, 2020
この作品どころか…作者の性癖としては恐ろしくニッチ!
ニッチだけど…そのニッチな性癖を細かいところまで描きこむ作者のこだわりに衝撃を受けて紹介したところ、アテナちゃんが拾ってくれた。
まさか販売数200(当時は100ほど)ですよ!?
販売数が全てじゃないけど、リーチしづらい作品を企業アカウントが拾い上げるって…すごくないですか!?
と、こんな感じでDLsite/DLチャンネルは「人気作品だけでなく、隠れた名作も丁寧に拾い上げていく」スタイルなんです!
広告としての効率はともかく、その道に通じたオタクからは納得と信頼を持つようなしっかりした戦略を取っています。
効率度外視でオタクに歩み寄る姿勢として…2018年までは「壁紙の無料配布」という粋な計らいもしてました。

ちなみに、今回のサムネはDLsite回だから、ここの壁紙から選んでます。
今でもダウンロードできるので、DLsiteファンの人、ファンになった人は是非どうぞ!!
一方で、広告映えにこだわったFANZAの広告達
FANZA同人の企業広告を調べる手段はなかったのですが…
「FANZAが何を売りたいか」
は、DMMアフィリエイトでユーザー向けに作ってるバナー広告を見るとけっこうわかります。
ただ…正直、オタクからすると刺さりづらいラインナップなんです。
セール広告は嬉しいですね。
FANZAはセール品がガツガツ売れるから、専用バナーを作ってくれるのは嬉しいです。
ただ…ラインナップにはちょっと納得行かない。
・FANZAのマンガランキングを席巻しているヒメカノシリーズ
・FANZAのみならず一般からも知名度が高いクリムゾン作品
この2つは意図がわかるんです。
でも、残りは…「ただ広告映えする3D作品・実写作品の人も好みそうな性癖(寝取られ/ナースなど)を盛り込んだ」の広告になってますね…。
確かに、そのほとんどは売れ筋で、売れ筋を伸ばしに行こうとする戦略はわかります。
でも、レビュー評価もそんな高くない作品も混じってるし、同人ツウな人が見ても困惑するようなラインナップなんです。
企業広告はまた違うのかもしれないし、DMMアフィリエイトで荒稼ぎした人向けのクローズド広告もあるかもしれませんよ?
ただ、同人作品紹介メインでDMMアフィリエイトを使う時に使えるバナーは…少ないですね。
FANZAしかできないような専売品/セール品があるからDMMアフィリエイトも頼りにはしてるんですけど…。
だから、FANZAで売れてる作品の中には
「FANZAでしか見たことない」
「オタクの間でしか評判が聞こえない」
といった作品がけっこうあるんです。
特に同人マンガや、CGでも3D造形の作品だと
「広告映えとセールの力で、作品の面白さや口コミ以外で売れた作品」
「オタクではなく、実写作品が好きなAVやイメージビデオのファン向けの作品」
多く混じっているんですよね…。
効率重視・客層の違うこと自体は悪いことではないです。
しかし「特徴を抑えないで広告や売上で作品を後悔する可能性がある」ことは抑えておく必要はあるでしょう。
アテナちゃん…いや、アテナ先生が「広告の違いも見ましょう」と言ったの、詳しく検証してみるとわかるよ…。
DLsiteとFANZAの間で売れ行きが乖離している作品の一番深いところは、たしかにFANZA側の広告戦略が絡んだ作品ですもの!!
日本最大級のデジタルコングロマリットと闘うDLsite
このシリーズでは散々「FANZA vs DLsite」と言ってきましたが…それは二次元エロを扱ってる大手2社だからこの言い方をしているだけで、そもそも全体としては大きさが違いすぎて勝負になってないんです。
その差はなんとユーザー数で6倍!
売上で言えば、13.73倍となります!!
DMMグループがこんな規模。
しかも、DMMゲームにユーザー登録してる人が2017年時点でも1900万人はいるんですね…。大多数がゲームを利用するユーザーだから、シナジーはありそうですね。

FANZA同人自体はユーザー数こそ不明であるものの、2018年時点でFANZA同人だけで1億4000万PVのアクセス数があることは公開されている。
これこそが「DMM/FANZAの1サービス」であることは相当な強みと言える。

そして、DLsite(の運営会社、エイシス)はこんな規模です。
一応、DLsiteを運営するエイシスは、DMMよりも売上大きい「ゲオグループ」ではありますが…DMM・FANZAと違ってポイントやサービス同士の繋がりが薄いから、DLsiteはDMM経済圏に1社で立ち向かっている状態です。
今や「ニッチなサービスを提供する企業」は「経済圏」と闘う時代に
「DMM経済圏」という聞き慣れない言葉を使ったけど…要するに
「独自のポイントと多彩なサービスによる囲い込み」
のことを、いいます。
DMMは「経済圏」という言い方をしてませんが、楽天は自分たちの囲い込み戦略のことを「楽天経済圏」とよくいいます。
経済圏は何がいいかというと…
「新しいサービスを使う時に、敷居が低くなる」
「経済圏を作れた企業は、広告や新規事業立ち上げの効率がよくなる」
のです。
特に、DMMの場合は、ドップリハマれるサービスがゴロゴロあります。
FXや証券も強く、艦これ(DMMゲームス)…何よりFANZAというAVの巨人があります。
別の目的でチャージしたポイント、もらったポイントがFANZA同人で使われたら…ユーザーに対して何の取っ掛かりもないDLsiteは不利です。
これはDLsiteに限ったことではありません。世界中で起こってることです。
少ないサービス・業態に特化した企業でも、多角経営を行ってる巨大企業(コングロマリット)と対峙しないといけない時代なのです。
とはいえ…DLsiteはまだラッキーな方です。
なぜなら、GAFAとほぼ戦わなくていいのですから…。
GAFAは米国の規制や宗教観などの問題からエロに消極的だから、巨大なライバルがDMM/FANZA程度で済んでる…とも言えるわけです。(アメリカがエロ二次元大国だったらDLsiteどころかFANZAだってどうなってたことか…)
エロくなくて、ITの要素が強いBtoCのビジネスの多くは「GAFA」の経済圏と向き合う形でビジネスすることになりますからね…。
スマホ(ゲーム)と比較される任天堂、Amazonと比較されてしまうZOZOTOWNなどの専門的なECサイト/電子書籍サイト/映像系サブスクリプションサービス。
つまり…世はまさに、コングロマリット経済圏時代!
専門性の高いすばらしいサービスを提供し続けても…数の力と向き合わないといけない時代なのです。
量と効率で圧倒する業界1位、質と独自色で立ち向かう2番以下の企業
この記事では「量と効率で圧倒するFANZA vs 質と独自のカラーで立ち向かうDLsite」という構図を紹介してますが…実は他の業界でもそうなんですよね。
王者は「王道を征く」んですね…。
わかりやすいのはコンビニじゃないですかね…。
大手ほど効率重視で「王道を征く」一方、ニッチなコンビニほど独自色を持っていてユニークです。
ミニストップやセイコーマートはセブンイレブンがやらない独特の挑戦・愛され方をしていますし、ローソンだって客層に応じた変わった店舗(ローソン100、ナチュラルローソンなど)があります。
セブンイレブンもセブンイレブンで王道だからこそ、
「コンビニなのにスーパーよりも安くていいもの」
が揃ってて近隣住民はすごく助かっていたり、
「コンビニだからこそ、お惣菜は高くて量が少ないけど外食するよりもうまい」
と安心できるラインナップが揃ってたりしてて愛好家は多いんですけどね…。
親切さの違いで言えば、任天堂とGoogleなんかは真逆すぎてわかりやすいですよね。
Googleは人の生活がかかってる収益の管理さえAI任せ。
長い目で見ると、Googleならではの「AIとルールでスパムを排除する作戦」はうまく行っています。
一方で、Googleに関わりながら動画やブログを作って一緒にお金儲けしてきた人はAIのご機嫌1つで収入が止まり、一般のユーザーが問い合わせたくても距離が遠いのが玉にキズ…。
一方、任天堂はお手紙からクレーム対応、さらには著作権のガイドラインまで、とにかく対応がすばらしいことが世界中で評判になっています。
ゲームのプラットフォームを司る会社同士なので、比較されては、
「据え置きゲーム機はもう古い」
「任天堂はスマホに対応したゲームで戦うべき」
色々言われてますが…圧倒的な数の暴力を前にしても、自分たちの強みを決して崩さないで戦い続けてます。
一番の「量と効率で圧倒する戦略」が悪いとはいいませんし、長い目で見るとみんなのためになることはいっぱいあります。
でも、業界で2番以下、業界1位でも隣接したジャンルに大きな脅威がいる会社は、独自の強みを突き詰め、熱心なファンに歩み寄ってがんばってるんです。
2番手以下の真摯な姿勢が、1位を倒すこともあるぞ!!
ここまで読んで、
「2番手以下の効率が悪くても質や独自性を重視する戦略を取ってしまった時点で、ずっと1番になれないのでは?」
と思う人もいるかも知れません。
しかしながら…逆転できることもあるんですね!!
家電量販店は長い歴史の中で1位がちょくちょく入れ替わっています。
最初は街の電気屋さんを多く抱える企業が1位でしたが、家電の種類が増えていくと大型店を持つ企業が勝つようになります。
さらに、家電のトレンドがカメラやパソコンになったり、ライフスタイルが郊外型から都市型になると昔強かった企業が変化しきれず、今のような情勢になっていきます。
「品質や独自路線を突き詰める」と言っても、家電量販店の場合は売れ筋が時代によって違うことで、独自路線こそが王道になったり、王道こそが時代遅れだったり…という逆転現象が起こるのです。
「回転寿司も、家電量販店も他業種をいっぱい買収したコングロマリットじゃない!DLsiteの相手がFANZAなんだからもっと複合企業に勝つ話をすべきでは?」
…ダイエーの話、します?
ダイエーは大型スーパーのみならず、小型スーパー・コンビニ・飲食店・ホテル・野球・クレジットカード・株式投資・大学の創設などなど…色んな事業に手を出して「コングロマリット」と呼ぶにふさわしい巨大で多角的な会社でした。
しかしながら、多角化したことで、逆に不況になると規模が大きいからこそ大きなダメージを受け、災害の煽りもいっぱい受けました。
本業はすっかり時代遅れになっていたため、都市では小さい店舗を効率よくやりくりするための工夫を重ねたコンビニにやられます。
特に首都圏ではイトーヨーカドーの集中出店(ドミナント戦略)の前に付け入るスキもなくなりました。
そして、郊外は創業者が「狸や狐が出るところに出店しろ」と言ったジャスコ(後のイオン)に抑えられてしまい…ダイエーの居場所はどこにもなくなりました。
コングロマリットは確かに規模が大きいからこそ、効率もいいし、強いです。
しかしながら、社会全体への変化やダメージもモロに受け止めることになるのも、巨大企業です。
そして、1位衰え始めた時に、時代を待ってた2位以下の企業が
「〇〇は所詮、先の時代の敗北者じゃけぇ!!」
と襲いかかるわけです。…もちろん、敗北者という事実は取り消せません。
確かに、1位が2位以下の企業に負けることは滅多に起こりません。
しかし、DLsiteを含めた2番手以下の企業の「質を突き詰め虎視眈々とチャンスを待つ戦略」「他の会社が真似できない強みを突き詰めていく戦略」は時代の変化とともに注目される日はきっと来ます!
だから、その日が来るのを信じて、DLsiteがずっとマニアックで、オタクもびっくりするほどオタクであり続けることを願うばかりです。
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