アズレンやFGOにも売り上げで勝ったノベルゲーム「泡沫冬景」の成功に日本のエロゲメーカーは続けるのか?

「日本のビジュアルノベルタイプのエロゲはまだまだ可能性がある」の一例として全世界で累計170万本うれた「ネコぱらシリーズ」(1本当たり2200円×3)がよくあげられますが、2019年にはもう一つとんでもない結果を出して話題になったゲームがあります。

 

旧ねこねこソフトスタッフ(Necoday)が中心となって制作した日中合作のビジュアルノベルADV「泡沫冬景」です。

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こちらに日本語には対応していません、とは書かれていますが日中合作なので、日本人の声優さんは日本語でしゃべっています。

中国人の声優さんたちはもちろん中国語でしゃべってるし音声がない地の文は日本語ではないので、さすがに現状でプレイするのは厳しいですがビジュアルが豊富なのでなんとなくストーリーを把握することは可能です。

泡沫冬景のゲーム内容・プレイ時間・価格など

こちらについては実際にsteam版を購入してプレイした人の動画がありますのでそちらで確認できます。

1つあたり10分~15分のチャプターが31あるため、その他要素含めてだいたい5~6時間ですね。

ちょうどWhite Album2のintroductory chapterと同じくらいの分量でしょうか。

フルボイスで、音楽も非常に素晴らしく、ビジュアルもしっかりしています。日本語版があったら是非やってみたいと思う内容ですね。

しかも価格はなんと1520円です。日本の同人エロゲより安い!

泡沫冬景 on Steam
It is the year 1988. Japan is in the midst of the bubble economy. New buildings are sprouting up everywhere, and the people are ecstatic. This is a story of peo...

先ほど例に挙げたWA2ICの価格は当初5280円でしたので、このことを考えると非常にお手軽だということがわかります。

中国でもFGOなどの人気でノベルゲームをプレイする人は多くなっており、しかもガチャ課金などと比べたら全然安い。そしてちょうどラノベ1~2冊分のボリュームで頼める手軽なサイズ感。

なによりも、日本語のノベルゲーの海賊版などではなく、日本人スタッフと中国人スタッフの合作による、中国人プレイヤーのために作られたノベルゲーム!

これは、自分が中国人でFGOなどをプレイしていたら絶対に購入していたと思います。おそらくですが「ちょっと豪華なライトノベル」という感覚でみんなプレイしたのではないでしょうか。

中国人のプレイヤーのニーズをものすごくよくとらえていると思います。

ねこねこソフトの方々がすごかったのか、企画・ディレクターの「古落」さんがすごかったのかわかりませんが、素晴らしい取り組みだなと思います。

「泡沫冬景」はどんなあらすじのストーリーなの?

ジャンルとして公式ページではバブル青春群像AVGと銘打っています。

実際にクリアした人の感想が語られています。

いま中国で人気だという泡沫冬景 (Christmas Tina) とはどんなゲームですか?
回答 (2件中の1件目) 昨日ちょうどクリアしたばかりなので、回答させて頂こう。 類型と言うなら、visual novels ですね。ギャルゲーと違い、ヒロインを攻略する仕組みではなく、選択肢もないです。字面通り、視学的ノベルズそのものと言えるでしょう。 台本担当は片岡とも(片岡とも - Wikipedia)です。...

ネタバレになるので日本語化を待ってプレイしたいという人は読まない方がいいかも?ネタバレにならない範囲を引用しますね。

日本のバブル崩壊前夜及び中国における上山下郷運動(上山下郷運動 – Wikipedia)が扱われます。その背景を知らなくても物語の流れに支障はありませんが、もし関連知識がある程度あれば、キャラクターの心境を把握しやすいと思います。内容について一言言いますと、中国で大学入試落第した来日中国人と、田舎から上京してくる少女が同棲生活を送る話です。バブル崩壊前夜、ということもあって、今見ると明らかにありえないような描写もありますが、特定の時代に置いたら納得でき、むしろかなり自然です。

この設定を聞くだけでもかなり面白そうですね。

「泡沫冬景」の販売元・スタッフなど

制作発表は2018年9月時点で行われています。全く知りませんでした。

2018年、中国の四川省で新ブランド「Nekodey」(成都猫之日网络科技有限公司)を発足し、2019年に日中合同制作による新作AVG『Christmas Tina ‐泡沫冬景‐』を発表。

また、デモムービーを見ていただければわかりますが、このゲームは音楽がとても素晴らしいです。その音楽を制作されているのはbermei.inazawaさん。

こだわり続ければ海を越える!「同人音楽の鬼才」bermei.inazawaの仕事術とルーツに迫る(インタビュー前編)
コミックマーケット、M3などの同人即売会で自主リリースした作品のクオリティーが反響を呼び、「同人音楽界の鬼才」として世間に発見されたbermei.inazawa(ベルメイ・イナザワ)さん。今では同人の枠を超えて「ぼくのり

ものすごいメンバーです。こんなクオリティのゲームが1520円だったらそりゃ買うでしょ……。

どういう経緯があってこうしたチームを組んで、日中合作でゲームを作ることになったのかその経緯がとても興味深いです。どちらが声をかけたのかとか、どういう風に話し合いを進めていったのかとか。

そして、NecoDayのtwitterアカウントを見ると、ここから発売間までの1年間いろんなプロモーションを行っていることもわかります。 日本人の声優さんと中国人の声優さんの音声収録はどの場所でどのように行ったのか、とか制作にまつわる話もものすごく興味深いです。

ぜひ誰かインタビューしてみてほしいです。というかこんなに面白そうな話なのになぜ誰もインタビューしていないの??? 私ダメもとで企画・ディレクターの古落さんにお伺いしてみようかなぁ…

なぜねこねこソフトのスタッフが中国に?

ねこねこソフトはこのNecoDay発足前、数年前から中国で活動されていた(支社が成都にあり、グッズの製造などを行っていた)というのは存じておりましたが、ほかにも20周年の際にHPで中国進出について描かれていたそうです。

成都はコミケのような形でComicDayというイベントが開催されるくらい二次コンテンツが人気な都市で、そういうところから中国での知名度も高かったのでしょうか。

実際中国ではどのくらい売れたのか?なぜ売れたのか?

当時の記録があればよかったのですが、少なくとも発売初日は本当に中国で売り上げ1位を獲得したようです。

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現在の売り上げランキングも確認でき、さすがに総合ではランク外になっているものの、今でも有料ゲームとしては上位をキープしていますものすごい人気ですね。

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中国でのセルラン1位は月商200億超といわれており、1日だと6~7億です。これを1520円で割ると1日で40万本売れたことになります。この勢いが1日で終わるわけもないですし、今でも有料アプリランキング上位をキープしていることからおそらく100万本とかそういうレベルではなく、それ以上の売り上げを達成していることもありえるかも??恐ろしいですね!

中国コンテンツ市場調査 2017年版(2018年3月) | 調査レポート - 国・地域別に見る

 

そもそも「ナルキッソス」が1000万ダウンロードされるくらいの超人気コンテンツであったというのは大きな要因だと思います

そもそも、ねこねこソフトが無料で提供しているノベルゲーム「ナルキッソス」は6か国語で1000万ダウンロードを突破していたというのを初めて知りました。

Steam:Narcissu 1st & 2nd
This is a story of disease and suffering; of medication and adverse effects; of thoracotomy scars and cellular poisons; of the living who cannot help but to die...

もともと分量的に軽いゲームというのもありますが、ナルキッソスのヒットが大きな土壌としてあったんですね。こうした要素も合わさって「泡沫冬景」のヒットが生まれたんだなと。

日本のビジュアルノベル制作会社や個人製作者は「泡沫冬景」のヒットをどのように参考にする?

簡単に振り返っただけでも、この作品がヒットした背景にはいろいろな理由があると推測できます。

泡沫冬景のヒットの背景は?
・音楽やグラフィック・ノベルパートなどの圧倒的なクオリティの高さとそれに見合わないほどのお手軽な価格

・1チャプター10分~15分という今の時代に合ったゲームの構成

・FGOやSAOなど、日本のノベルやラノベ文化に親しんでいる人たちへの訴求

・成都を中心とした、中国におけるねこねこソフトブランドや、bermei.inazawaさんのネームバリュー

・その他中国のユーザーニーズに詳しい人達による効果的なプロモーション

ちなみに、冒頭で紹介した大ヒット作「ネコぱら」シリーズを送り出した、NEKO WORKs代表&プロデューサーのさよりさんも中国出身ですし、こちらもかなりのボリュームの作品を2200円で販売しているというところも共通しています。そう考えると中国ユーザのニーズを理解しているというのはものすごく大事だと思います。英語圏ではSekai Projectさんという心強い存在がいますが、中国圏にはそういうエージェントも存在していないようですし。

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売上の内の9割が海外で、さらに地域別でみると中国が圧倒的に多いので、ビジネスの視点から見ても「対応してよかった」と思っています。1作目のときは北米がいちばん多かったのですが、『2』、『3』と進むにつれて中国の割合が増えていきましたね。ちなみに北米のユーザー数は減っていないので、単純に中国のユーザーが増えているんです。ユーザー動向の違いとしては、アジア圏は発売日に買いたい方が多く、北米などはセール待ちの方が多いです。

多分、そのまま日本のフルプライスのエロゲを中国のsteamに載せてもヒットする作品は限られているんだろうなとは思います。上にあるように中国人は「新作」を欲しがるみたいですし。

でも、やりようによってはここまでヒットしうるということが示されました。実際、すでに取り組んでいるメーカーさんもたくさんいらっしゃると思います。

簡単ではないと思いますが、日本のエロゲメーカーが世界で活躍してる姿を見てみたいなぁ……。

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