前回に引き続き、Innocent GreyのParannoia三部作の完結編「天の少女(からのしょうじょ)」発売前企画として過去作品の振り返りを行っていきます。
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※当たり前ですが完全ネタバレなので、あくまでも「殻ノ少女」「虚ノ少女」をプレイした人向け記事になります。
殻ノ少女キャラクター03 六識美砂
「殻ノ少女」と「魍魎の匣」の最大の違いはこの六識美砂という存在にあると言っても過言ではありません。「魍魎の匣」において匣の中の少女は一人だけですが、「殻ノ少女」は二人いるんですね。
このキャラクターは物語開始時時点ですでに死亡しており、作品中にも全く出てこないのですが「殻ノ少女」全体に強い影響力を及ぼしています。
公式設定資料集「SHOEL」における六識美砂の設定解説
命の妹であり冬子の本当の母親。
歳の割には若く美しくどこか儚げな印象の女性。頼りなく周囲に流されがちな性格であるが気の強い一面もある。極度のブラザーコンプレックスの持ち主。難病で兄を苦しめていた兄の恋人(セレス)を激しく恨み、彼女が亡くなった後苦しんでいる兄を慰めているうちに関係を結んでしまう。(兄の恋人の死に関して、本当は過ちで美砂が殺してしまった。)
また幼い頃から絵に関心を持ち命の元から離れた後は倉敷にわたり、中原美術館で絵画の修復家として働いていた。そこで実業家であり美術館のオーナーである中原慎二郎の孫であり当美術館のキュレーターを務めていた中原幸人と出会う。二人は恋に落ちるが慎二郎の反対で一緒になることはできなかった。その時すでに命の子を身ごもっていた(※美砂自身は、兄である命から生殖機能が失われており自分が冬子を単為生殖で産んだという事実は知らない)が、幸人は自分の子として認知することを約束した。それは私腹を肥やしていた新次郎へのささやかな反抗でもあった。しかし幸人か出兵することになり結局二人は結ばれることはなかった。
己の罪(兄との不貞行為)を隠すため、生まれたばかりの冬子を施設に託す。その後冬子は朽木家に養子としてもらわれる。美砂は東京の美術館で働いている時に間宮心像と知り合い、彼の助手になる。心像の異常性に気付いた時にはすでに遅く四肢を切断され幽閉されてしまう。美砂を愛してしまった心臓は自分だけのものにするためにそうしたのである。後に彼の代表作で最高傑作とされた「殻ノ少女」のモデルが四肢を切断された美砂である。 冬子同様に先天性の再生不良性貧血(むしろオリジナル)
六識美砂の元となった京極夏彦作品のキャラクターは?
これは「魍魎の匣」に登場する柚木絹子・柚木陽子(美波絹子)・柚木加菜子です。
特に柚木陽子の要素が強いと言えます。
①柚木絹子は美馬坂幸四郎の妻であり「魍魎の匣」そのものです。物語開始時点ですでにものを言わぬ「生きているだけの物体」と化しています。美馬坂幸四郎を狂気に追いやった原因ですね。これは「間宮心像を狂わせ、殻ノ少女となってしまった美砂」に対応します。
②柚木陽子は実の父である美馬坂幸四郎と近親相姦の末に柚木加菜子を産みました。これは「兄である六識命との近親相姦を行った妹としての美砂」「母親としての美砂」に対応します。さらに、財閥の御曹司である柴田と恋仲に落ち(陽子は柴田のことは好きではなかったが)、子供を認知させようとしたところは「中原の姓を名乗っていたころの美砂」に対応します。
③柚木加菜子は事故で致命傷を負い、四肢を失った姿になったことで「久保竣公」が連続殺人犯を犯すきっかけになりました。これは「間宮心爾を狂気に向かわせ殺人を起こすきっかけとなった偶像としての美砂」に対応します。
六識美砂の正体不明ぶりについて
彼女は物語の中ではマクガフィンのような存在(「桐島、部活やめるってよ」の桐島のような存在)であり、サブキャラにすら立ち絵が存在するこのゲームにおいて一切生前の姿が出てきません。つまりゲーム中ではどういう人物であったかが全く分からないのですね。
であるにも関わらず、すべての物語の中心に位置し、多くの人間に影響を与えまくっています。この物語は彼女を中心とした「中空構造」になっているんですよね。この部分を「天ノ少女」で埋めることができるのかどうか、それとも「ステラ・マリス」が新たなる中心になるのか。そこがとても興味深いです。
殻ノ少女キャラクター04 朽木冬子
「カラノショウジョ」シリーズの主人公にとってのメインヒロインであり、彼女の「捜してほしいんだ。――私を。本当の、ね」がこの物語のテーマになっているのですが、いまだにそれが果たされたのか果たされていないのかは不明です。
実は処女懐胎から生まれた娘ではなかったというオチもあり得るのだろうか……。
公式設定資料集「SHOEL」における朽木冬子の設定解説
謎の美少女。先天性の病気のため非常に体が弱く、学校を休みがち。大人びてはいるが大人ではない。大人でも少女でもない人間。
ちょっと変わった芸術家タイプの人間で、独創的な価値観の持ち主。外見は美少女なのだが諭すような独特な口調で話す。古びた日本家屋に母、兄と3人で住んでいて、普段は着物を好んで着ている。幼い頃に施設に預けられ、その後朽木家に養子に出されているが本人は知らない。
本当の自分を探してもらうため探偵に依頼する。本当は寂しがりやで孤独に苛まれており、似たような境遇の玲人や透子に親近感を抱く。櫻羽女学院では美術部に所属しており放浪癖がある。生まれつき再生不良性貧血という厄介な病気を抱えている。これは母親である六識美砂による単為生殖の副作用である。この病気のことは家族と主治医以外は知らず本人も詳細は知らない。そのせいで冬子が隠れて投薬している姿を見てしまった透子にドラッグをやっていると勘違いされてしまい、薬を隠されて大変なことになってしまう。
その後交通事故で重傷を負い敗血症に感染して緊急手術をすることになる。しかし特殊な血液型のため輸血用の血液が少なく、全身に血液を送ることが不可能だった。そこで生きることを最優先とし、最少量の血液で生きられるようにするため四肢を切断されてしまう。
また、作中部活等で絵を描くシーンがあるが、その絵を完成させて彼女は死んでしまうので冬子がどんな気持ちでそれを描こうとしていたのかが本作中の謎として残る仕掛けである(瑠璃の鳥)
朽木冬子の元となった京極夏彦作品のキャラクターは?
「魍魎の匣」に登場する柚木加菜子です。
柚木陽子と父親の近親相姦の結果生まれ、実の父親どころか母親が誰かすら知らずに育ったという点では朽木冬子と同じです。しかし柚木加菜子は真実を知るまでは、雨宮という男性と「姉」と思っていた陽子に大事に育てられ、貧しいながらも幸せで満ち足りた人生を送っていたんですね。満たされずに真実を求めた朽木冬子とは対称的な存在といえます。
しかし、彼女は真実を知って家出をし、その先で事故にあい、あとは利用されるだけされて救われることなく死んでしまいます。四肢を切断され何も語れなくなった後の彼女が何を考えていたかは誰にもわかりません。
にも拘わらず、「匣」のなかの彼女は美しく、笑顔だったといいます。
彼女と同じポジションを与えられた朽木冬子も同じように非業の運命の果てに命を落としますが、彼女は最後に大切なものを残していきます。あのシーンを見たとき、朽木冬子だけでなく柚木加菜子のことも思い出して心が震えました。
朽木冬子の心情について
メインヒロインという割に設定や情報量は多くない不思議なキャラクターです。生きて玲人の側にいるときはつかみどころがなく彼女が何を考えていたのかもよくわからない。失われてから彼女のことを何度も考えて彼女の気持ちを想像させられる、そんなタイプのヒロインだなと思いますね。
CVは「あじ秋刀魚」さんという人で、この作品の頃から活躍を始められた人。棒読みのようなそうでもないような不思議な感じの声色で、彼女のつかみどころのなさが表現されていると思う。(それ以外の作品を聞くと、別に声優さんが棒でないことがすぐわかります)
殻ノ少女キャラクター05 朽木千鶴
熟女だけどブラコンという凄い属性持ち。
このキャラクターはドラマCDに全く登場しません。つまり物語の根幹には直接絡まない。ただ冬子の生きづらさの原因になった人物なので、冬子と合わせて紹介しておきます。
公式設定資料集「SHOEL」における朽木千鶴の設定解説
朽木靖匡の娘。幼い頃から体が弱く引きこもりがちな性格だった。
16歳の頃に慢性骨髄性白血病にかかるが、母親の愛と父親の技術により救われる。しかし慢性骨髄性白血病の治療の際に受けた放射線治療の影響で子供を産むことができなくなった。この時の千鶴の腹の中には愛する人の子供がやどっていたのだが放射線の影響で流産してしまったという。
この事実に耐え切れず落ち込んでいた千鶴のために父親は養子として冬子を迎え入れた。冬子が子供の頃までは一生懸命に面倒を見ていた千鶴ではあったが、少しずつ変化が起こり始めやがて冬子に対してどう接していいかわからずに戸惑うようになっていった。そのうち千鶴の代わりにありである文弥が冬子の面倒を見るようになる。
冬子は14歳になる頃には子供とは思えない頃の美しい少女に成長し、千鶴にとってあってはならないことが起きてしまったのである。兄文弥の気持ちが完全に冬子にうつってしまったのである。
つまり千鶴は幼いころから、兄である文弥に恋心を抱いていたのだ。思春期だった文弥は妹の寝姿に自分を抑えきれずに犯してしまう。それはたった一度の過ちだった。端からみれば強姦だったのかもしれないが、千鶴から見ればそうではなかった。驚きはしたものの抵抗を諦めたわけではなくそれを受け入れてしまったのである。
その一度の過ちで子供ができてしまったが千鶴は素直に喜んだ。もちろん誰の子供かは父親には言っていなかった。文弥も何も言わなかった。父と産む産まないの言い争いをする中、絶望が千鶴を襲う。慢性骨髄性白血病の発病である
「虚ノ少女」とのつながりが自分の中で整理できてない……。16歳で流産して、それから療養のために人形村に行ったの?だったらあの抵抗ぶりは一体……。
朽木千鶴の元となった京極夏彦作品のキャラクターは?
特に対応キャラはいないと思います。(あえていうと織作家かな?)
上でも述べたように「朽木冬子を引き取ったものの冬子を愛さなかった女性」「冬子の美しさの引き立て役」という以上の意味はあまりないのかなと。正直虚ノ少女で出番がたくさんあると思ってなかったです。
ただ、個人的には私冬子より千鶴さんの方が見た目好みなんですよね。いかにも幸薄そうだし和服が似合うし声もぴったりだし。
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